京都大学所蔵資料でみる植物学の時代

  博物学(natural history)とは、動物・植物・鉱物といった自然界に存在する物について、種類や性質などの情報を収集・記録し、さらにそれを整理・分類する学問をいい、自然誌(史)とも言われます。

  西欧では、18世紀後半から行われた世界各地への探検によって、未知の生物や珍奇な博物標本がもたらされ、膨大な情報を蓄積しました。それらは、『一般と個別の自然誌』の著者のビュフォンや、現在使われている学名の形式の基礎となった「二名式命名法」を創始したリンネなどによってまとめられ、彼らの著書は当時の一般市民にまで広く流布し、学問としても隆盛を極めました。

  ここでは、リンネ以前に属名と種名を区別したボーアンの『植物の劇場総覧』や、多数の図版により初心者でも植物を見分け、分類できるよう配慮されたトゥルヌフォールの『植物学の基礎』、数万点に及ぶ標本をもとに日本の動植物を研究したシーボルトの『日本動物誌』、『日本植物誌』を見ることができます。また今後は、リンネやビュフォンの著書や、西欧の博物学を日本に紹介した宇田川榕庵、伊藤圭介の著書など、京都大学が所蔵する博物学資料の中から代表的なものを集める予定です。

  資料名・人名の日本語表記は西村三郎著『文明のなかの博物学 -西欧と日本-』(1999年 紀伊国屋書店)に従いました。



『日本植物誌』(シーボルト ; ツッカリーニ)1835-1870 【理学部植物学教室所蔵】
Flora Japonica, sive, Plantae quas in Imperio Japonico collegit, descripsit, ex parte in ipsis locis pingendas curavit Dr. Ph. Fr. de Siebold / Philipp Franz Balthazar von Siebold ; Joseph Gerhard Zuccarini (RB00000001)

『日本動物誌』(シーボルト)1833-1850 【理学部動物学教室所蔵】
Fauna Japonica, sive descriptio animalium, quas in itinere per japoniam,jussu et auspiciis superiorum, qui summum in India Batavia Imperium tenent suscepto, annis 1823-1830 collegit, notis observationibus et adumbrationibus illustrabit / Philipp Franz Balthazar von Siebold (RB00000002, RB00000003, RB00000004, RB00000005)

『一般と個別の自然誌』(ビュフォン)1749-1767 【医学図書館所蔵】
Histoire naturelle, generale et particuliere, avec la description du cabinet du Roi / Georges-Louis Leclerc de Buffon (RB00000011, RB00000012, RB00000013, RB00000014)

『自然の体系』(リンネ)1907 (1735初版の復刻版) 【理学部植物学教室所蔵】
Systema naturae, sive regna tria naturae systematice proposita per classes, ordines, genera et species / Carl von Linne (RB00000018)

『植物学の基礎』(トゥルヌフォール)1694-1695 【理学部植物学教室所蔵】
Elemens de botanique ou methode pour connoitre les plantes / Joseph Pitton de Tournefort (RB00000006)

『植物の劇場総覧』(ボーアン)1623 【理学部植物学教室所蔵】
Pinax theatri botanici, sive Index in Theophrasti Dioscoridis, Plinii et Botanicorum qui a saeculo scripserunt opera / Gaspard Bauhin (RB00000007)

『植学啓原』(宇田川榕庵)天保4序 【附属図書館所蔵】[富士川文庫 シ/176(RB00000623)] [富士川文庫 シ/197(RB00000412)]

『泰西本草名疏』(伊藤圭介)文政12 【附属図書館所蔵】(RB00000420, RB00003972)

『植物の種』(リンネ)1st ed. 1753 ; 2nd ed. 1762-1763 【理学部植物学教室所蔵】
Species plantarum, exhibens plantas rite cognitas, ad genera relatas, cum differentiis specificis / Carl von Linne
1st ed. (RB00022901), 2nd ed. (RB00000017)

『植物の属』(リンネ)5th ed. 1754 ; 6th ed. 1764 【理学部植物学教室所蔵】
Genera plantarum, eorumque characteres naturales secundum numerum, figuram, situm et proportionem omnium fructications partium / Carl von Linne
5th ed. (RB00000015), 6th ed. (RB00000016)


参考文献

博物学全般

  • 西村三郎著『文明のなかの博物学 -西欧と日本-(上・下)』(1999年 紀伊国屋書店)
  • 西村三郎著『リンネとその使徒たち -探検博物学の夜明け-』(1989年 人文書院)
  • 荒俣宏著『地球観光旅行 -博物学の世紀-』(1993年 角川書店)
  • 荒俣宏著『大博物学時代』(1982年 工作舎)
  • 『出島の科学』(2000年 日蘭交流400周年記念展覧会「出島の科学」実行委員会)
  • 『リンネと博物学 : 自然誌科学の源流』(1994年 千葉県立中央博物館)

『日本植物誌』(シーボルト ; ツッカリーニ)

  • [シーボルト著];木村陽二郎, 大場秀章解説『シーボルト「フローラ・ヤポニカ」 日本植物誌』(2000年 八坂書房)
  • P.F.B.フォン・シーボルト著;大場秀章監修・解説;瀬倉正克訳『シーボルト 日本の植物』(1996年 八坂書房)
  • 北村四郎[ほか]解説『シーボルト「フロラヤポニカ」解説』(1976年 講談社)
  • 木村陽二郎著『シーボルトと日本の植物 : 東西文化交流の源泉』(1981年 恒和出版)
  • CALANUS カラヌス特別号1,2『シーボルトと日本の植物学』(1997-1998年 熊本大学理学部附属合津臨海実験所)

『日本動物誌』(シーボルト)

  • 『シーボルト ファウナヤポニカ解説』(1975年 講談社)
  • 『シーボルト 日本鳥類図譜』(1984年 文有)
  • 『日本鳥類目録 改訂第6版』(2000年 日本鳥学会)
  • 山口隆男[著]『川原慶賀と日本の自然史研究 1』CALANUS カラヌス No.12(1997年 熊本大学理学部附属合津臨海実験所)

『一般と個別の自然誌』(ビュフォン)

  • 杉山武敏「ビュフォンの博物誌」(京都大学附属図書館報 静脩 38.1 2001年)
  • ジョルジュ=ルイ・ルクレール・ビュフォン原著 ; C・S・ソンニーニ原編集 ; 荒俣博監修『ビュフォンの博物誌 :
  • 全自然図譜と進化論の萌芽 : 「一般と個別の博物誌」ソンニーニ版より』(1991年 工作舎)
  • ジャック・ロジェ著 ; ベカエール直美訳『大博物学者ビュフォン : 18世紀フランスの変貌する自然観と科学・文化誌』(1992年 工作舎)
  • 日本放送協会編 ; 荒俣宏講『博物学の世紀』(1988年 日本放送出版協会)

『植物学の基礎』(トゥルヌフォール)

  • 木村陽二郎著『生物学史論集』(1987年 八坂書房)
  • 木村陽二郎著『ナチュラリストの系譜』(1983年 中央公論社)

『植物の劇場総覧』(ボーアン)

  • アグネス・アーバー著 ; 月川和雄訳『近代植物学の起源』(1990年 八坂書房)

     

京都大学理学研究科生物科学図書室 Digital Archives

※2020年10月9日に、理学研究科生物科学図書室所蔵資料21点を追加公開しました。これは、「京都大学理学研究科生物科学図書室 Digital Archives」として公開されていたデータを京都大学貴重資料デジタルアーカイブへ移行したものです。

生物科学図書室が所蔵する多数の古い図書資料は,研究の必要から集められ,また記録として残されてきたもので、今でも内外の多くの研究者に利用されています。これらは歴史的な価値があるだけではなく、研究に欠かせない重要な資料です。しかし長年の使用と経年劣化のための損傷が避けられないため、今後も研究資料として活用できるよう日常的に修理をおこなってきました。2010-2012年にはグローバルCOEプログラム「生物の多様性と進化研究のための拠点形成」 の補助を受けて、修理とともに、貴重書や酸性紙図書のディジタル化をおこないました。全体から見ればごく一部ですが、これまでに数千ページの資料のディジタル化を終え、インターネット上で公開しています。これらは下記のリンクからたどって見ることができます。

その中の小泉源一、および山田壽雄の資料はここでしか見ることができないものです。「自然史・系統分類学関係の図書」には1831年に英国で出版された図版の美しいツバキ図説や、比較的新しい日本蛇類圖譜など、他所ではあまり見られないものもあります。
 

ウプサラ,ライデン,パリ等の標本館に保存されている日本産植物標本の調査
(小泉源一 自筆およびタイプ資料)

大日本樹木誌 巻之三(未刊)-- 山田壽雄による図

自然史・系統分類学関係の図書

c 2011-2013 Biological Science Library, Kyoto University
スキャニング,図書修理:朝倉知佐子(生物科学図書室)
構成,CGI スクリプト,画像処理:井上敬(植物学教室)
解説:疋田努(動物学教室),井上敬(植物学教室)
協力:永益英敏(総合博物館),山極寿一(動物学教室)

 

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