古地図は,それが描かれた時点における地理的情報を表現したものである。ところがその情報は,必ずしも事実であるとは限らず,さまざまな不正確さや誤解・誤認を含んでいる。とりわけ,情報量の少ない古い時代においては,情報源と地図の作製者やそれを使用する人々の認識によって表現が大きく左右されざるを得なかった。

日本の伝統的世界観は西方への関心であり,ヨーロッパの地図発達は西方から東洋に及んだ。日本における境域への関心は,当時のヨーロッパ図のフロンティアでもあった日本とその北方において,東西世界の情報が一体化され,新しい成果を生み出す役割を担った。

古地図が示すのは,単なる情報ではなく,それを世界認識の中に位置付けた結果である。展示された古地図は,その時々の世界認識とその変化を顕現し,やがて世界を事実に基づいて把握するに至る過程を示している。

(出典: 「日本の西方・日本の北方 -古地図が示す世界認識- 京都大学附属図書館所蔵室賀コレクション古地図展」