大惣本とは、江戸中期から明治中期まで名古屋で営業した貸本屋、大野屋惣八店(略称「大惣」)の旧蔵書です。
当時の貸本屋は流行中の書物だけを揃えておき、流行が過ぎれば処分して次の書物を購入するのが一般的でした。しかし大惣は「仕入れた本は転売しない」という不文律を引き継いで蔵書を増やしたため、江戸後期には全国一の規模の貸本屋となりました。流行の小説に限らずあらゆる分野の書物を扱った点においても、大惣は当時の貸本屋とは異なりました。庶民にとって、書物といえば貸本屋から借りて読むものだった近世において、大惣は現代の公共図書館以上の役割を果たしたと言えます。
明治維新以後、書物の大量生産が可能になってからは多くの貸本屋が衰退し、大惣も明治31年頃に廃業が決まりました。16,734部にのぼる膨大な蔵書が売却されることになり、帝国図書館(現在の国会図書館)、東京帝国大学、京都帝国大学、高等師範学校(現在の筑波大学)等が買い上げました。
本学が所蔵する大惣本は、3,667部、13,081冊にのぼります。内容は仏教、神道、医学、天文学など多岐にわたりますが、特に浮世草子、歌舞伎、浄瑠璃の脚本などの江戸文学書が質量ともに優れています。分野を問わず写本が多いことも特徴です。東京帝国大学所蔵分の一部が関東大震災で焼失したため、今日では京都大学が大惣本の最大所蔵館となっています。
参考文献
- 『京都大学蔵 大惣本目録』
第一分冊 http://hdl.handle.net/2433/204362
第二分冊 http://hdl.handle.net/2433/204363
第三分冊 索引 http://hdl.handle.net/2433/204364 - 日野龍夫「大惣本目録刊行によせて」(『静修』Vol. 27 No. 3)http://hdl.handle.net/2433/37089
- 廣庭基介「京大『大惣本』購入事情の考察」https://doi.org/10.20722/jcul.306
※資料の電子化は、国文学研究資料館が実施する「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」(略称:歴史的典籍NW事業)に拠点大学として参加して実施しています。
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