三十六歌仙
三十六歌仙像

清家文庫は清原夏野(782~837)27世の孫少納言舟橋秀賢を家祖とする元子爵舟橋清賢氏の伝襲本である。

舟橋家は清原夏野以来,明経博士をもって経書を講じ,現当主の先代逐賢にいたるまで,その家学を継承した儒学の名家である。菅家とともにわが国儒学の双へきであった清原家は後に舟橋と改姓し,あるいは分家して伏原と称したが清原元輔以来,清少納言,頼業等その一門より学者,文人が続出し,学界に輝しい足跡を残している。特に宣賢,業忠,国賢等は碩学の誉高く,特に宣賢は室町時代の代表的経学者として知られている。

本文庫は舟橋家の遠祖より伝世された同家の日録,備忘録,系図等の記録書翰,秘伝,口宣案等の文書,または天皇に侍読の際に用いた進講本等の貴重な古文献の一大集成である。

舟橋家が明経道をもって朝廷に奉仕した清原家の嫡流であるため,本文庫は経書,特に宣賢を主軸とする室町時代の同家の磧学業忠,国賢等の儒学の著書を根幹としている。しかし宣賢筆の「新古今集注」,「年中行事」,「宣賢卿字書」等の国文,国史に関する和書も少なくない。

文書記録は室町期をさかのぼるものはなく,その成立は主として徳川期であるが,同家一門の有識者が子孫のために書残した儀式典礼の故実,考証に関する覚書類が多く,有識故実の典拠として最も信頼しうるものであろう。

なかんづく本文庫を有名にさせたものに「清原家家学34種」がある。この一群の稀覯書は昭和27年重要文化財に指定されている。その中「周礼疏」単疎本,「孝経述義」明応6年〔1492〕奥書,「中庸」弘安2年〔7382〕の筆写本3点は,いずれも戦前国宝に指定されていた天下の孤本である。特に「中庸」は長慶天皇の弘和2年(1382)僧禅恵によって,大和国宇智郡栄山寺行宮で書写された古鈔本である。それが朱子注であることと,弘和2年(1382)の奥書のあることで,後醍醐天皇以来の宋学の伝統と影響を窺うことができ,儒学史上の貴重な資料として学界より注目されている。また本書が栄山寺行宮に関する重要な歴史的史料であることも,看過することはできないであろう。

「清原家家学34種」には宣賢自筆の「尚書聴塵」,永正,大永,天文年間宣賢自筆の「大学」,清家累代の家訓として伝えられた延文元年(1356)10月教氏伝授の奥書のある「古文孝経」等,宣賢の進講本をはじめとして,訓点訓注が収められ,また清家一門の講説,あるいは書入れ等の南北朝より室町にいたる貴重な原本が集大成され,清家学の本質と伝統が燦然として,その光芒を放っている。

本文庫の特筆すべき独自性は,前述の如く宣賢,国賢等を中心とする清家一門の磧学の自筆本であるが,刊本にも慶長元和年間の,世に本能寺前町版と称する片仮名交りの木活字版「孟子抄」,「毛子抄(*1)」等,極めて稀少な珍籍も散見される。

清家文庫は舟橋清賢氏が昭和26年より3カ年にわたって寄贈した2,300余冊と,本館が同氏より購入した「清原家学書34種」等同家伝来の秘籍289冊の集成である。清家文献の収集においては,質量ともに本文庫の右に出るものはない。

なお昭和34年12月,本館創立60周年の記念事業の一つとして,本文庫中の重要文化財「孝子伝」1巻を影印複製して,専門学徒の机上におくった。

(解説の出典: 京都大学附属図書館編「京都大学附属図書館六十年史」第3章第3節)

*1 原文をそのまま引用。正しくは「毛詩抄」。

 

※ 一部資料に、『鈴鹿目録』から引用した解題(手書き資料であった『鈴鹿目録』を京都大学大学院文学研究科国語学国文学研究室が補訂した暫定版)を付しています。
 

 

平成25年度図書館振興財団振興助成事業 「清家文庫など京都大学附属図書館所蔵・貴重資料の電子化」

事業趣旨

 京都大学附属図書館では、平成10年の「京都大学電子図書館」の開設以来、貴重な古典籍・古文書をはじめとする学術資料の電子化とインターネット上での公開に取り組んでおり、ホームページ「京都大学電子図書館 貴重資料画像」において、すでに約4千点を公開しています。
 本事業は、公益財団法人図書館振興財団平成25年度振興助成事業による支援を受け、京都大学電子図書館のさらなる充実を目指して、所蔵する約5万点の貴重書の中から、重要文化財を含む資料群として資料的価値も高く閲覧希望の多い「清家文庫」を中心に電子化・公開し、朝廷で儒学を教えた公家の南北朝時代から江戸時代にわたるコレクションを世界へ発信するものです。
 貴重資料は、資料保存の観点から閲覧には数多くの制限を設けざるを得ませんが、これを電子化し本学の電子図書館(ウェブサイト)を通じて公開することにより、資料の利用促進・非来館者サービスの向上を図ると共に、世界中の研究者の研究活性化に寄与することができます。これは同時に、貴重な原資料の保護・保存への取り組みの側面を有し、利用と保存の両立という学術情報基盤としての大学図書館の使命を果たす意義をも有しています。
 

清家文庫(せいけぶんこ)について

 本事業の対象資料は、清家文庫を中心とした貴重書計24点です。
 清家文庫は、大半が清原家(船橋家)39代目当主の清賢氏(元子爵)から取得したもので、重要文化財指定資料34点を含む全779点からなります。
 清原家は代々朝廷で儒学(明経道)の講義を勤めており、コレクション中には天皇の侍読の際に用いた進講本、あるいは清原家代々の講義や書き込み本といった南北朝から室町期に至る貴重な原本を含んでいます。さらに儒学に関する本ばかりではなく、朝廷の儀式典礼を書き留めた日記や秘伝書、江戸時代前期の希少な木活字版も存在しています。「天下の孤本」と呼ばれる、本コレクション以外で伝わっていない資料もあり、中国古典研究ばかりでなく国文学、日本史の領域からも注目されている古文献の一大集成です。
 その中でも特に貴重とされ受入当初から貴重書に指定していた古文献が202点あり、これまでに175点を電子化してWeb上で公開しています。本事業による電子化対象は17点であり、実施後は傷みが激しく撮影不可能な資料を除き、清家文庫の至宝ともいうべきコレクションの中核がすべて電子化されました。さらに関連の深い貴重書7点の電子化もあわせて実施しました。
 

電子化資料一覧

No.    文庫等    書誌ID    タイトル    請求記号
1    清家文庫    RB00008163     易占    1-62/エ/1貴
2    清家文庫    RB00008164     易占/備忘    1-62/エ/2貴
3    清家文庫    RB00008218     聞書著述/文化二年    1-61/キ/1貴
4    清家文庫    RB00008246     月令抄 2巻    1-64/ケ/2貴
5    清家文庫    RB00008260     孝経述義序並古文孝経序    1-66/コ/5貴
6    清家文庫    RB00008293     胡曽詠史詩注    4-08/コ/1貴
7    清家文庫    RB00008299     古文孝経    1-66/コ/2貴
8    清家文庫    RB00008300     古文孝経    1-66/コ/10貴
9    清家文庫    RB00008373     侍中備急抄/天正第十七年    5-17/シ/2貴
10    清家文庫    RB00008379     周易    1-62/シ/8貴
11    清家文庫    RB00008381     周易卜筮之抄    1-62/シ/6貴
12    清家文庫    RB00008392     春秋左氏伝 存巻7-14    1-65/シ/1貴
13    清家文庫    RB00008405     尚書抄/再秘    1-63/シ/3貴
14    清家文庫    RB00008689     職原抄(私抄)    2-03/シ/2貴
15    清家文庫    RB00008490     大学章句    1-66/タ/5貴
16    清家文庫    RB00008516     帝範    1-84/テ/2貴
17    清家文庫    RB00008671     六十四卦飛伏六親備忘    1-62/ロ/1貴
18    一般貴重書(和)    RB00012927     新編江湖風月集略注 4巻    1-25/コ/2貴
19    一般貴重書(和)    RB00012976     百衲襖     1-62/ヒ/1貴
20    一般貴重書(和)    RB00012999     孟子抄 巻1-14    1-66/モ/1貴
21    一般貴重書(和)    RB00013515     落久保物語 4巻    4-30/オ/1貴別
22    一般貴重書(和)    RB00013596     三十六歌仙像    8-44/サ/1貴別
23    一般貴重書(和)    RB00013662     七人ひくに    4-40/シ/2 貴
24    一般貴重書(和)    RB00012881     破提宇子    1-06/ハ/1貴

(平成26年(2014年)3月)

 

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