京都大学所蔵資料でたどる文学史年表: 源氏物語

《この作品について》


源氏物語 げんじものがたり - 平安時代中期


 源氏物語は、紫式部によって書かれた平安時代中期の長編物語で、日本を代表する古典文学として、世界的にも非常に有名な作品です。全 54 帖。
 主人公・光源氏をめぐる恋愛・人生を中心として、物語は展開していきます。そのモデルは藤原道長ではないかとも言われています。さまざまな恋物語、多彩な登場人物、平安王朝の宮廷の様子、貴族たちの日常生活のほか、平安時代当時の信仰・社会・文化などが描かれています。
 第 1 部 桐壺~藤裏葉:桐壺帝と更衣との間に皇子として光源氏が生まれる。光り輝くような青年に成長した光源氏は、葵上と結婚、紫の上を引き取るほか、夕顔・六条御息所・末摘花・朧月夜などの多くの女性たちと恋に落ちる。父帝のもとに入内した藤壺と源氏との間に男子が生まれ、帝の皇子として育てられる。源氏はその罪におののき、妻・葵上は生霊に殺され、父帝が亡くなり、政敵の策略によっていったん須磨に流される。京に戻った源氏は、宮廷で次第に出世・権勢を持つようになり、成功していく。藤壺との間の子・若宮は冷泉帝となり、息子・夕霧も結婚し、娘・明石姫君は東宮の妻となり、邸宅・六条院での生活はきわめて華やかである。
 第 2 部 若菜~幻:源氏 40 歳。朱雀院の娘・女三宮を託され、妻として迎える。その女三宮は柏木との間に息子・薫を設ける。その事情を知った源氏は、自分と藤壺の罪をも思い、葛藤に悩む。最愛の紫の上が病気で亡くなり、源氏は出家を決意する。
 第 3 部 匂宮~夢浮橋:源氏亡き後の次の世代。薫 (女三宮と柏木の子、源氏の子として育つ) と匂宮 (明石中宮と帝の子)が中心となる。やがて舞台は宇治へと移り、薫・匂宮・浮舟の恋物語が展開する。
 作者・紫式部 (978? - 1015?) は、藤原為時の娘として生まれました。親・兄弟や親類縁者には歌人や学者として名のある人も多く、文芸・学問に恵まれた環境で、幼い頃から漢籍・和歌などの教養を身につけるよう育てられたと思われます。夫の死後、藤原道長の娘で中宮であった彰子のもとで宮仕えを始めました。源氏物語は、夫の死後に執筆が始まり、宮仕えの環境の中で完成されていったものと考えられています。その成立当時から作者・紫式部の周囲ではたいへんな評判であったようです。"紫式部" という彼女の呼び名も、源氏物語の中の最重要人物・紫の上が由来であると言われています。
 源氏物語の随所には、史記・白氏文集など、当時貴族の間で重要な教養とされていた漢文学の素材・表現があらわれています。紫式部の漢籍の素養が充分に発揮されている、と言えるでしょう。
 それまでの和歌・物語・日記などの日本文学、中国からの漢文学、仏教文学など、あらゆる先行文学を吸収するようにして成立した源氏物語は、その後の日本文学・日本文化の多くに影響しました。さまざまな物語・和歌・文学、さまざまな芸術品・文化様式に、素材として採用され、模倣され、伝承されていきました。また、歌人にとっては源氏物語の理解が不可欠とされ、源氏物語研究も鎌倉時代から盛んに行なわれていました。ダイジェストやガイドブックのようなものも古くから登場し、源氏物語の写本自体が嫁入り道具としても扱われることもありました。
 現代に至っては、ドラマ・映画・コミックにも採用され、かつ英語だけでなく各国のあらゆる言語に翻訳されて、いまも人々を魅了しつづけています。

 

源氏物語(中院文庫) 「桐壺」冒頭。
源氏物語(中院文庫) 「桐壺」冒頭。
「いつれの御時にか女御更衣あまたさふらひ給けるなかにいとやむことなききはにはあらぬかすくれてときめき給ふありけり・・・」



《画像&資料について》

 上の画像は、室町時代末期 (享禄 4 年) 頃に書き写された、源氏物語の写本です。花宴の巻、葵の巻を欠いた、全 52 冊。中院文庫に収められています。

●[源氏物語・中院文庫]

このほかに、京都大学貴重資料デジタルアーカイブでは、源氏物語に関連するさまざまな資料をあわせて公開しています。以下はその一部です。
●[源氏物語系図]
●[源氏物語音楽之事]
●[源氏小鏡]


《もっと知りたい》

【関連書籍】
源氏物語 新装版 / 瀬戸内寂聴
新源氏物語 / 田辺聖子著 (新潮文庫)
窯変源氏物語 / 橋本治著 (中公文庫)
潤一郎訳源氏物語 / 谷崎潤一郎 -- 改版 (中公文庫)
あさきゆめみし : 源氏物語 / 大和和紀著 (講談社コミックス)
「源氏物語」を旅しよう / 瀬戸内寂聴 (講談社文庫)

【Web】
源氏物語の世界
徳川美術館
五島美術館

 

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