成就妙法蓮華経王瑜伽観智儀軌

 本書は、法華経二十八品の要旨をそれぞれ四句ずつの偈として説き、続けて法華経の供養法の作法を説いたものである。
 外箱があり、「傳曰桓武天皇宸翰 古経堂徹定ヨリ大行満願ニ傳タルモノ/成就妙法蓮華経王瑜伽知儀軌 壹巻」と書かれている。本書には、「異字引証」と題された一紙(養鸕徹定筆か)が付属している。その欄外にある本書についての覚書によると、元は東寺蔵本であったらしく、その前半の八割を購入したという。
 本書の巻頭の「信」印は養鸕(古経堂)徹定のもので、「大行満」は願海の印である。願海は幕末の僧であり、一時期高山寺近くに滞在していた。その際の手記が現存しており(『願海書志』)、そこに本書を徹定より譲り受けた際の記録がある。願海は「弥勒慈氏大士ノ銅像」を徹定に贈り、本書を得た。願海によれば、「傳ヘ云フ、桓武天皇ノ宸翰ナリト、其ノ行墨用筆、湖東蘆浦観音寺蔵、宸筆法華経ト、毫モタゴウコトナシ」(六九ウ)という。本書は巻尾を欠くため奥書などを見ることはできない。「傳曰桓武天皇宸翰」とあるが、本文の書風からは、時代の下った平安後期頃の書写かと見られる。本書には高山寺印があるが、三行目中央という中途半端な位置にあり、元は東寺蔵本であったという情報も考慮すると、願海が高山寺に寄贈したものと考えるべきであろう。
 本書の本文を大正蔵と比較すると、底本である高麗大蔵経本ではなく、「甲」として校異が採られている空海『三十帖策子』(第十帖)に合致する箇所が多い。また、偈には大正蔵の本文や校異にも見られない行が二行ある。その二行には法華経二十八品の十二番目「提婆達多品」が含まれており、これは『仏書解説大辞典』では「法華経の二十七品が掲げられ……第十二提婆達多品が除かれてある」とされる、欠けた本文であると考えられる。また、大正蔵内でこの二行と合致するのは、「別行」(No. 2476、永久五年(1117)、寛助)の「成就…儀軌」を引用した箇所のみである。すなわち、本書の本文は、古い形の本文を伝えたものだと考えられるのである。(出典:「本を伝える―高山寺本と修復 : 平成27年度京都大学図書館機構貴重書公開展示図録」