梵網経盧舎那仏説心地法門品菩薩戒本
仏教の修行上の規則を「戒」という。『梵網経』(梵網経盧舎那仏説菩薩心地戒品第十)は大乗仏教の実践面の中心である菩薩戒を説いた根本経典である。
本書は『梵網経』の中心をなす下巻部分の古版本であり、京都大学所蔵高山寺本の中の白眉であろう(図1・2)。
見事な扉絵があり、宋版としても古い。北宋版であろう。「敬」字などに欠筆が見られる(図3)。欠筆と 長上者の諱と同一の文字を使うことを避け、文字の一部を略すことである。北宋の太祖趙匡胤の祖父の名が「敬」であるため、「敬」字を欠筆としている。
また、あまり密ではないが、角筆によって加えられた訓点(仮名、句読、返点、合符)がある。たとえば、「鉄錐」に「テツスイ」、「聴」に「キ」などと見える。
『高山寺聖教目録』に
梵網経戒本一巻(第二十四〔甲/〕)
梵網経戒本一巻(第七十四〔乙/〕)
とあり、現高山寺経蔵に同本を見出すことができないので、どちらかが京大所蔵本に該当すると思われる(京大本は表紙を改めてしまっているため、表紙に書き込まれていたであろう箱番号を確認できない)。
補修奥書(図4)に名が見える慧友僧護(1775 - 1853)は高山寺十無盡院第二十二代。安永四年伊賀国上野に生まれ、智積院主謙順僧正について得度し、1801年、二十七才で高山寺報恩院に移錫した。1807年、三尊院に移住し、山務となり、十無盡院主を兼ねた。嘉永六年、慧友が七十九歳で寂したのも高山寺十無盡院においてである。慧友は高山寺において経蔵典籍の整理・修復に心を砕いた。経蔵資料には慧友による多くの書き入れを見ることができる。