京都大学所蔵資料でたどる文学史年表: 大和物語

《この作品について》


大和物語 平安時代


 『大和物語』は、平安時代に作られた物語です。天暦5年(951)頃成立し、その後増補を重ねて、現在の形になりました。
 本作品の元になっているのは、歌語りです。歌語りとは、口承で伝えられた、和歌にまつわる説話のことです。『大和物語』は、これらの話を材料にして作られています。
 各章段の区切りについては諸説ありますが、現在、全 173 段と考えるのが一般的となっています。現在流布している『大和物語』では、300 首近くの和歌が収録されています。実在の人物や、伝承上の人物が多く登場し、その和歌に関する裏話や、悲しい伝説が語られています。
 同じく平安時代に作られた『伊勢物語』と同様、歌物語のひとつに分類されます。が、一人の人物(在原業平といわれる)を主人公とし、「男」という抽象的な名前を用い、世俗的なことを排除して書かれた『伊勢物語』とは違い、『大和物語』は、多くの人物を登場させ、実名や身分を出し、むしろそこに興味の中心をすえながら、その歌や人物に関する伝承を記していることが特徴です。

 

『大和物語』(一般貴重書)156段「姨捨」。
『大和物語』(一般貴重書)156 段「姨捨」。
ある男が、妻にそそのかされて、親のように養ってきた伯母を山に捨ててきたものの、家に帰って、山の上にある月を眺めながら、悲しい思いに沈み、伯母を連れて戻ったという話。男の詠んだ和歌と、それにまつわるエピソードが語られる"歌物語"。



《画像&資料について》

 上の画像は、一般貴重書として収められている『大和物語』です。江戸時代の古活字版の『大和物語』です。巻末に「寛永十六年二月吉辰」とあり、寛永 16 年(1639)に刊行されたものとわかります。冒頭の6丁分を失ったためか、この部分は手書きで写されたものが付けられています。
 この画像の左ページ(朱丸以降)は、156 段目の「姨捨」です。信濃(現在の長野県)の更級というところに住む男が、妻にそそのかされて、親のように養ってきた伯母を山に捨ててきたものの、家に帰って、山の上にある月を眺めながら、悲しい思いに沈み、「わが心なぐさめかねつさらしなやをばすて山に照る月を観て(私の心を慰めることはできない。更級の姨捨山に照る月を見ていると。)」という歌を詠んで、山へ行き、伯母を連れて戻ったという話で、現在でも「うばすて山」の昔話としてよく知られています。
 このように、『大和物語』には、実在の人物の逸話だけでなく、伝承として民間に伝えられた話も多く収録されています。

●[大和物語 2巻・一般貴重書]

 

《もっと知りたい》

【関連書籍】

竹取物語・大和物語・宇津保物語 / 藤井貞和, 大岡信(新潮古典文学アルバム)
竹取物語 / 片桐洋一校注・訳 . 伊勢物語 / 福井貞助校注・訳 . 大和物語 / 高橋正治校注・訳 . 平中物語 / 清水好子校注・訳( 新編日本古典文学全集)

【Web】

九大コレクション・大和物語 (支子文庫本)
愛媛大学電子図書館・鈴鹿本大和物語

 

京都大学所蔵資料でたどる文学史年表


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