京都大学所蔵資料でたどる文学史年表: 世間胸算用

《この作品について》


世間胸算用 江戸時代


 『世間胸算用』は、西鶴浮世草子の町人物(ちょうにんもの)の一つです(井原西鶴の項参照)。各 4 章、全 20 編の短編から成っており、元禄 5 年(1692)に刊行されました。西鶴の作か否か明確でないものを除けば、これが、西鶴生前に出された作品のうちの最後にあたるものです。
 副題が「大晦日(おおつごもり)は一日千金」とあることからもわかるように、一年の最後の日である大晦日の日に焦点をあて、この日の町人たちの生活・様子を描いた作品です。裕福な町人から貧しい町人まで、各階層の人々の生活を、大晦日という一日を通して描くという、卓越した趣向がこの作品の魅力といえるでしょう。西鶴が生涯関心を持ちつづけていた、時代を生き抜く町人たちの生のあり方を、巧みな表現で描き、西鶴町人物の最高峰ともいわれる作品です。

 

『世間胸算用』(一般貴重書)
『世間胸算用』(一般貴重書)
巻 2 ・ 4 「門柱も皆かりの世」
大晦日に借金取りの代金請求からのがれようとする男が、自殺をするようみせかけ、多くの借金取りはあきらめて帰る。が、材木屋の丁稚がそれを見破り、男をやり込める。



《画像&資料について》

 上の画像は、『世間胸算用』巻2・4「門柱も皆かりの世」の挿絵です。
 江戸時代は、つけで買って年末に代金を払う、掛買いという方法が一般的です。そのため、大晦日には借金取りが代金を請求してまわる光景があちらこちらでみられました。中には知恵を絞って、何とか借金をのがれようとする人間もいます。この巻2・4の話では、主人が自殺をするようにみせかけたため、多くの借金取りはあきらめて帰ります。しかし、材木屋の丁稚はそれを見破り、主人をやり込めます。画像の挿絵には、丁稚と主人が争っている様子が描かれています。追い詰められた主人はしかたなく代金を払いました。そこで、丁稚は主人に借金取りを追い払う新しい方法を伝授します。これ以後、主人はこの方法を使い、うまく借金取りたちを追い返しました。
 このように、『世間胸算用』は、滑稽な部分も含みながら、たくましく生きる町人たちの様子が生き生きと描かれており、大変面白い作品です。

●[世間胸算用 5巻・一般貴重書]

 

《もっと知りたい》

【関連書籍】
井原西鶴集 / 井原西鶴 [著] 3(小学館 日本古典文学全集)
世間胸算用 / [井原西鶴著] ; 暉峻康隆訳・注(小学館ライブラリー)

 

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