新聞文庫・絵
新聞文庫・絵

新聞文庫は元大阪新聞社記者中神利人氏旧蔵の、幕末より第二次世界大戦の初期に至るわが国の諸新聞とその類縁資料の収集である。

収集領域は日本全土にわたり、三都をはじめ各地方の有名新聞はほとんど網羅されているが、巻号の完全なものは極めて少ない。しかし、幕末明治初期の諸新聞で伝存するものが甚だ少ない今日、この種の稀少な新聞がこのように多量に比較的良好な状態で保存されていることは注目されてよいだろう。殊に幕末明治初期に創刊された揺藍期の諸種の新聞、なかんずく錦絵新聞と瓦版が含まれていることは特筆に値する。

わが国新聞の発祥といわれる文久2年(1862)の官板「バタビヤ新聞」等の翻訳新聞、慶応3年創刊の「万国新聞紙」等の外国人経営の新聞類をはじめとして、「郵便報知新聞」「北国新聞」等中央、地方の有名無名の多種多様の新聞を包容している。また明治初年江戸、横浜において発行された「中外新聞」「江湖新聞」「もしほ草」等のいわゆる佐幕派新聞があり、また佐幕派新聞に対して「都鄙新聞」等の京都発行の尊皇派新聞が同床異夢していることも興味深い。

特に瓦版、錦絵新聞等はこの文庫の特異な存在である。瓦版は元和元年(1616)板行の「大阪阿部之合戦之図」、「大阪卯年図」がその最初であると伝えられているが、架蔵のものは幕末期の地震、火事等の天災を取扱ったものが多く、社会的事件を主題としたものは比較的少ない。「大阪大火之図」「京都大火之図」、「大江戸類焼地震場所付」等はいずれも幕末期のもので、瓦版としては最も普通のものでめずらしくはないが、「江戸神田橋外女仇討天保6年」、「肥後国海中の怪弘化3年」、「紅毛国舶来剛猪天保3年」等は、当時の耳目を衝動せしめた事件を報道した極めて珍稀な瓦版である。

錦絵新聞は文を附随的説明とし、錦絵を主とする新聞で、明治初年より同10年頃にわたて東京、大阪で板行された一枚刷の新聞である。

「東京日々新聞」、「大阪新聞錦絵」、「日々新聞」、「錦画百事新聞」等数種類が架蔵されているが、特に「平仮名絵入新聞」は注目されてよい。「平仮名絵入新聞」は落合芳幾等が麗筆を揮った錦絵新聞で、明治8年(1875)創刊のわが国最初の錦絵新聞である。錦絵新聞は江戸時代の瓦版と錦絵が融合同化して、今日の新聞形式に変形したものとも見られ、しかもその同化の中に両者の原形が想像され、江戸時代の情緒もしのばれて、甚だ興趣深いものがある。

なお新聞の号外、附録はいうまでもなく、こと新聞に関する限りは書籍、雑誌の類に及ぶまで広く収集されている。例えば明治新聞界の先覚者であり、元老であった成島柳北、矢野文雄の焼付写真が採取されているが如きはその一例に過ぎない。

本文庫は昭和16年、17年の二回にわたり、大阪朝日新聞社主上野精一氏が贈与した多額の寄金をもって、中神利人氏より購入した648部約861冊の新聞、およびその参考資料である。

なお本学経済学部にも上野氏が昭和33年3月以降現在に至るまで寄贈を続けている新聞関係、および社会学関係の和書800冊以上、洋替6、400冊以上の収書が上野文庫と名付けられ保管されている。

(解説の出典: 京都大学附属図書館編「京都大学附属図書館六十年史」第3章第3節)
 

書誌一覧