京都大学所蔵『建内記』が重要文化財に指定されます

 京都大学附属図書館および総合博物館が所蔵する古記録『建内記(けんないき)』(自筆本)が、新たに国の重要文化財に指定されます。(令和8年3月26日、文化審議会の答申(国宝・重要文化財(美術工芸品)の指定等))
『建内記』は室町時代の政治・社会の情勢を伝える極めて貴重な史料です。研究者による「菊亭文庫」の調査成果が、このたびの重要文化財指定へと結実しました。

 『建内記』が含まれる「菊亭文庫」とは、西園寺家の一門である菊亭家(今出川家)に伝来した史料群で、大正時代に京都大学へ永久寄託されました。2020年度に新たな関係資料とともに改めて菊亭家から京都大学に寄贈されたことを契機に、翌年から上島享教授、大槻信教授(文学研究科)を中心に、学内外の研究者や大学院生、図書館職員等が協働して「菊亭文庫」の網羅的な調査を行っています。「菊亭文庫」の全体像を明らかにすることを目的とした調査の成果が、このたびの重要文化財指定へとつながりました。

▼菊亭文庫

『建内記』解説 / 上島 享(京都大学文学研究科教授)

 『建内記』は室町時代前期の公卿である万里小路時房(までのこうじ ときふさ/1394~1457年)の日記です。万里小路家は藤原氏北家高藤流の内、勧修寺流の一門に属します。勧修寺流は、天皇の蔵人を勤め、頭弁(蔵人頭と弁官を兼務)を経て、公卿へと昇進し、同時に上皇や摂関に近臣として仕える有能な実務官人を多く輩出しました。時房も同様に、後小松・称光天皇の蔵人、頭弁を経て、参議、権大納言へと昇り、武家伝奏となります。武家伝奏とは朝廷(天皇・上皇)と幕府(将軍)との間で連絡・交渉を行う役職です。そのため、時房は政治の機密情報を含む最新の情勢に接することができ、その内容が『建内記』に詳細に記されています。時房は後に内大臣に昇進するものの、すぐに辞官し政務からは身を引き、長禄元年(1457)64歳で逝去します。

 『建内記』は時房の法号「建聖院」と彼の極官にちなむ「建聖院内府記」の略称です。現在、応永21年(1414)から康正元年(1455)までの記事が残っていますが、欠落している部分も少なくありません。京都大学には時房の自筆本がまとまって所蔵されており、このたび重要文化財に指定されました。今回、指定の対象となったのは附属図書館および総合博物館に保管されている『建内記』です。附属図書館所蔵分は菊亭家に伝来したもので、江戸時代より同家で所蔵されていたと推測されます。一方、総合博物館所蔵分は大正4年(1915)に京都大学が購入し、文学部国史研究室で研究・教育の資料として保管・活用されてきました。

 

 『建内記』の日記としての特徴のひとつに、その日に受け取った文書そのものが添付されている点があります。時房の自筆部分の写真を示しながら解説しましょう。

 

 

 写真①は文安4年(1447)正月13~15日条で、時房が見聞した宮中や寺院での出来事などがやや崩れた字体で書かれています。

写真1
写真①

 注目したいのは、正月15日条に続く写真②③です。これは15日に時房の許に届いた文書の正文で、それが日記に貼り付けられているのです。写真③は、15日付で山科にある勧修寺の三綱(上座・寺主・都維那からなる寺務を主導する僧侶)らが勧修寺家長者(家長)である時房の「御息災、延命増長福寿、御願円満」の祈願として「二七ヶ夜」(十四日間夜に)般若心経三万巻の転読などを行ったことを報告する文書であり、巻数(かんず)と呼ばれます。写真②は勧修寺の堂達良増(堂達は職名)が勧修寺家一門の繁栄を言祝ぎ、写真③の巻数を時房へ届けるさいに付した添状です。

写真2
写真②

写真3
写真③

 それに続く写真④は写真①と同じ筆跡であり、時房の自筆です。写真④の7行目には「長者がための祈願、毎春の儀なり。祝着祝着」と時房が喜んでいる様子がうかがえます。そして、自らの息災祈願に対する謝意を示す手紙を、時房は家司(家来)の家種に命じて書かせます。それが写真④の4~6行目の巻数返事と呼ばれる文書です。この文書の原本は勧修寺へ届けられたため、時房の手許に原物はなく、日記にはその写が控として転記されているのです。

写真4
写真④

 このように、時房は自らの許に届いた文書の原本を日記の表に貼り付け、その後に礼状の写を記載しているのです。その日に受け取った文書そのものを日記へ添付することは、平安時代の貴族日記には見られないことで、この時期の日記の特徴といえ、実用的な史料保存のあり方なのです。『建内記』自筆本からは、時房の周囲で起こった出来事のみならず、関係者との間での文書の具体的な動きをも知ることができるのです。日本史学の研究では、典籍(日記など)と文書(手紙)とを別の範疇の史料としますが、両者が一体となっている『建内記』自筆本の姿は興味深い形態だと考えます。

資料一覧

レコードIDタイトルコレクション所蔵
RB00031827建内記 応永三十五年二月・永享二年四月記菊亭文庫附属図書館所蔵
RB00031828建内記 応永三十五年三月記菊亭文庫附属図書館所蔵
RB00031829建内記 永享二年・正長元年五月記菊亭文庫附属図書館所蔵
RB00031830建内記 正長元年六月・応永三十五年三月記菊亭文庫附属図書館所蔵
RB00031831建内記 永享三年三月記菊亭文庫附属図書館所蔵
RB00031832建内記 永享十一年二月記菊亭文庫附属図書館所蔵
RB00031833建内記 永享十一年二月彗星等之事記菊亭文庫附属図書館所蔵
RB00031834建内記 文安元年二月記菊亭文庫附属図書館所蔵
RB00031835建内記 文安四年正月記上菊亭文庫附属図書館所蔵
RB00031836建内記 文安四年正月記下菊亭文庫附属図書館所蔵
RB00031837建内記 応永三十五年二月等記菊亭文庫附属図書館所蔵
RB00031838建内記 永享二年記菊亭文庫附属図書館所蔵
RB00031839建内記 応永三十五年正月記菊亭文庫附属図書館所蔵
RB00028332建内記 秘記萬消息集(永享二年二月等記)菊亭文庫附属図書館所蔵
RB00028361建内記 時房公記(永享二年二月二十七日記)菊亭文庫附属図書館所蔵
RB00028362建内記 時房公記(永享二年二月記)菊亭文庫附属図書館所蔵
RB00028364建内記 不知記(正長元年十月二十八日記)菊亭文庫附属図書館所蔵
RB00036246建内記 正長元年十月記-総合博物館所蔵
RB00036247建内記 永享二年二月記-総合博物館所蔵
RB00027605建内御記抜書菊亭文庫附属図書館所蔵