長州兵入京図

慶應三年十二月八日、朝廷に於ては三條實美以下七卿並に毛利敬親父子の官位を復舊し、入京を允可せられたので、攝津西宮に屯して待機中であつた長藩諸兵は、急遽奇兵、遊撃二隊を先鋒と爲し、全軍悉く進發し、夜半郡山に到り、翌朝芥川に達した。西郷隆盛が其問に在て種々便宜を謀つたことは別項品川彌二郎宛の書翰にも見ゆる如くである。長兵はかくしてこの日山崎關門を無事通過して粟生光明寺に入つた。翌十日夕刻家老毛利内匠は三中隊を率ゐて入京、直ちに參内して優渥なる叡旨を拝した。文久三年八月十八日、長藩が堺町御門の警衞を解かれ、入洛を禁ぜられて以來、實に四年餘であるが、茲に再び天日を仰ぐの有難き恩命に浴するに至つたのである。本圖の筆者久保田米僊は京都の人、鈴木百年の門に學び、故實に通曉し屡々御前揮毫の光榮に浴したが他方新聞挿晝にも一生面を開いたといふ。明治三十九年十一月歿、享年五十五歳。(出典:『尊攘遺芳』)